1年生の夏、部室を出たところの廊下で寝ていたら誰か知らない人がすぐそばまで来た。ギターを担いでいた。ぼんやりしながら、顔が小山田圭吾みたいだなぁと思った。その人は、起き上がったあたしにギターをケースごと差し出して言った。
「あげる」
ビックリしたあたしに彼は言った。
「貴音くんの弟子でしょ?」
「あ、はい」
「アコギも弾いたらいいと思うよ」
YAMAHAの黒いアコースティックギターだった。部室に戻るといつものメンバーに加えて普段いない先輩たちも数人いた。話を聞くとその人は部のOBで、卒論のテーマが競馬だったりして、なんか昔色々すごかった人らしくて、よくわからないけど、でもすごかったらしくて、小山田圭吾に似てて、広島から遊びに来てるって話だった。
どうして突然あたしにギターをくれたのかはいまだによくわからない。貴音先輩の弟子だったからくれたっていう理由もよくわからない。先輩の弟子はあたしだけじゃないし。だけどあたしはその黒いギターにネロという名前をつけて可愛がってる。
その小山田圭吾みたいな先輩はすぐに帰ってそれ以来学校にも来てないんだけど、連絡先を聞いていたので今でもたまにメールを送る。
猫の写真とか、送ってくる。あたしもカレーの写真とか送る。不思議。メールが来ると嬉しい。数ヶ月に1回とか、思い出したように、でも何事もなかったかのように、毎日会ってる友達みたいな短いメールを送る。
それは、とても不思議で、とても、楽しい。
ネロはとてもクリーンな音で歌う。定演に来てくれたらいいのに、と思っていたけど、でも、それも別にいいかなって思ってる。
一期一会は時に物凄いインパクトを与えるわ。